前回の記事(『消化・吸収』ざっくり編)ではざっくりすぎて物足りなかったというあなたのために。
少し掘り下げて『消化と吸収』についてまとめていきます。
掘り下げる部分は、消化の工程で起こっている「消化酵素のミラクルと内臓たちの連係プレー」です。
これは専門職の方というよりは一般の方向け、マニアック編です。
体調不良を人任せにせず、自分でちょっと考えながら生活習慣を見直したいな、と思っている方へ、学校時代の生物の授業以来の人体生理学です。
食べ物の通り道に関しては前回の記事(『消化・吸収』ざっくり編)にある「消化のあらすじ」、それから消化の方法については「消化には2つの方法がある」でまとめたものをご参照ください。
それでは行ってみましょう!
目次
消化には物理的消化と科学的消化がある、ということはお話ししました。そして、その消化という工程において絶対に欠かせないもの、それが「消化酵素」だということも理解していただいてることでしょう。
実はその消化酵素、食べたものを消化するために、決まった場所で決まったものが分泌されています。
そしてその性質やはたらきが、本当に不思議で神秘的です。なぜ、誰が、そのように作り仕組んだのか、と、知れば知るほど感動します。
さきほどからお伝えしているように、消化酵素は、決まった場所で決まった酵素が分泌され、そしてその酵素にしか分解できないものを分解して、食べ物を少しずつ“栄養素”という形に変えていきます。
それというのも、食べ物というのはいわば固形の塊。これを小腸や大腸の血管やリンパ管の壁で取り込めるまで一気に小さくすることはできないので、段階を経て細かくしていくために、たくさんの酵素が用意されているんですね。
誰が作ったのかはわかりませんが、本当にすごいことです。
まず口腔では「唾液」が唾液腺から分泌されます。その唾液のほとんどは、食物をやわらかくし、かみ砕きやすくするための水分です。
私たちが食べるときに口の中でもぐもぐと噛みながら「美味しい」と味わうことができ、ゴクリとスムーズに飲み込めるのは、この唾液があるお陰なんですね。
そして唾液にはデンプン(炭水化物、芋・豆類に多く含まれる)を分解するアミラーゼという消化酵素が含まれます。
そう。すでに私たちは口の中で、デンプンを分解し始めています。だからよく噛むと、甘く感じますよね。
ただ、アミラーゼは糖質の成分であるデンプンの分解“のみ“行う、ということになり、つまりたんぱく質や脂肪の分解はまだここでは始まっていないというのも面白いところです。
そしてかみ砕かれた食物は、胃の中へ運ばれていきます。
すると、胃では蠕動運動やホルモンの作用により、強酸性の「胃液」が分泌され始めます。
そして胃酸に含まれる「粘液」で胃壁をしっかり保護しながら、食物に付着している菌を殺菌するとともに、胃液に含まれる消化酵素ペプシンがタンパク質の分解を始めます。
そして、胃は数時間かけて撹拌しながら胃酸を分泌し、食物をドロドロになるまで消化・分解していきます。
実はここでの胃液の役割はとても重要になります。
それは、外界からの細菌を強酸で殺菌し、その先の腸へは通さないため、ということや、できるだけ食物をドロドロの液状に消化することで、次の小腸へ未消化物が送られないためという理由で。
実は胃液がきちんと分泌され、胃がきちんとはたらくということは、過去の記事(『SIBO』大腸の前の小腸で起こっていること)の中でお伝えした『SIBO』の原因ともなる小腸内での細菌の増殖に繋がってしまう要因を、胃のはたらきにより食い止めることができると言えるからなんですね。
ただ、胃液というのはpH1.0~2.5の強酸性ですが、食習慣などによりこのpHが薄まってしまう(酸性が弱まってしまう)、ということも気をつけたいところです。
さて、少し内容の濃いパートです。なぜなら、次に登場する膵液と胆汁は、セットではたらく少し特殊なはたらきだからです。
胃の下部後ろ側に位置する膵臓からは、「膵液」が分泌されます。
これに胆のうから分泌される「胆汁」が混ざり合って、胃の出口に続く小腸の最初にある十二指腸で、胃から送られてきたドロドロに消化された食べ物や胃酸と混ざり合いながら消化を進めます。
十二指腸にはこの2つの消化酵素が出てくる口、「小十二指腸乳頭」と「大十二指腸乳頭」が開いていて、このひとつから弱アルカリ性の膵液を分泌し、胃酸で酸性になっているドロドロさんを中和します。
そしてもうひとつの口から、膵液+胆汁のミックス酵素が分泌される構造になっています。
お気づきのように、唾液や胃液には分解できる栄養素が一つずつしかありませんでしたが、なんと膵液は三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)すべてを分解する消化酵素が含まれている、オールマイティな消化酵素なんですね。
ということで、ほんの30cmほどの十二指腸では一気に栄養素の分解が展開されていきます。
膵液には「糖質」を分解する膵アミラーゼ、「タンパク質」を分解するトリプシン、キモトリプシン、ペプチターゼ、「脂質」を分解する膵リパーゼなど多くの種類の酵素が含まれています。
これを見るだけでも膵臓がそれだけ多くの重要な消化酵素を分泌する重要な臓器であることがわかりますよね。
*膵臓といえば“インシュリン”を思い出す方もいると思いますが、インシュリンはホルモンですので、消化酵素とは別のはたらきをします。
そしてそこにもうひとつ重要な存在が「胆汁」です。
脂肪というのは、ご存知のようにそのままでは水には溶けません。
実は脂質を分解する「膵リパーゼ」は水溶性のため、それ単体では脂肪を分解することができないのです。そこで胆汁が“乳化剤”のような役目をして、膵リパーゼが脂肪を分解できるように作り変えるのです。そしてこれがうまく作用して初めて、脂肪は体に吸収できる大きさに分解され、吸収されるようになるのです。
さて、いよいよ吸収の大舞台、空腸・回腸です。小腸のほとんどはこの部分で占められているおよそ6メートルに及ぶ場所です。
しかも消化の最終段階の場所であり、栄養素と水分の8割はここで吸収されているという重要な場所です。
小腸は輪状のヒダで覆われた特殊な構造になっています。
そしてそのヒダは500万本あるといわれる1mmほどの「絨毛」と呼ばれる突起物で覆われ、そして絨毛には「微絨毛」と呼ばれるさらに極小の突起物が生えています。
小腸だけで消化管全体の4分の3の面積を占めているといわれ、ご存知の方もいるかもしれませんが、この絨毛(微絨毛)までをすべて広げると、実際の見た目の600倍の200㎡、テニスコート一面分に匹敵する広さがあると言われているのです。
私たちが生きていくために栄養を吸収する本舞台・小腸は、これだけの表面積があるから、あらゆる栄養素を吸収することができるんですね。
さて、この空腸・回腸にある“絨毛”という小さなヒダから、“炭水化物”と“タンパク質”そして一部の“脂肪”が吸収されていきます。この絨毛(微絨毛)というのがとても小さな器官なので、ここから吸収できるように、さらに細かく分解するために「腸液」が分泌されています。
炭水化物に多く含まれるデンプンは、唾液や膵液に含まれるアミラーゼによってマルトースやデキストリンという小さな単位に分解され、そして腸液の中のラクターゼ、マルターゼ、スクラーゼなどの酵素を使うことでさらに細かいグルコースにまで分解し、小腸のヒダにある絨毛の血管の壁から吸収されるようになります。
その他にも糖質はいろいろあり、乳糖、果糖、ショ糖など、糖という分類でもそれぞれ違う性質の糖のため、違う酵素によって最小単位まで分解されていきます。
実はこれらの糖が、過去記事(『SIBO』大腸の前の小腸で起こっていること)の『SIBO』を誘発するものとなり、『SIBO』を発症している人の腸内では、これらの糖を多く含むものがエサとなり発酵してしまうと考えられているわけです。
次にタンパク質ですが、すでに胃において酵素分解が進んでいるものが、ここでアミノペプチターゼやジペプチターゼといった消化酵素を使い、小腸で吸収されるようにタンパク質を最小単位のアミノ酸に分解していきます。
さて、これら小腸で吸収された栄養素ですが、絨毛ヒダにある血管を通していったんは肝臓へ運ばれ、体を動かすエネルギーとして貯蔵されたり、体を作る養分となるように作り変えられます。
そこで忘れてはならない脂肪についてですが、脂肪はその性質が水性ではないため、分解、吸収の経緯や経路がやや異なります。
脂肪の中には「グリセロール」という水に溶けやすい成分のものがあり、これは小腸の上皮細胞から吸収されていきます。また鎖状に連なっている脂肪酸の短いもの(短鎖脂肪酸)もブドウ糖やアミノ酸と一緒に、血管を通して肝臓に運ばれていきます。
それではそれ以外の脂肪は、というと、なんだかややこしい工程を踏むんですよ。
脂肪は十二指腸で膵アミラーゼによって「モノグリセリド」と「脂肪酸」という形に細かく分解されます。
そしてこれらは胆汁のはたらきで乳化されることで、親水性のある「ミセル」という小さな分子に取り込まれ、小腸の上皮細胞から吸収されることになります。
ただ、せっかく吸収された脂肪成分。実は吸収された後、タンパク質と結合し、「カイミクロン」という大きな「リポタンパク質」に作り変えられるということなのです。
そして分子が大きいため毛細血管からは吸収されることができず、リンパ管から吸収されていくという経路をたどります。
そのため、同じタイミングで食べたとしても、脂質が血液の中に入るタイミングは、糖質やアミノ酸と比べると遅くなるのです。
もうなんだかわけがわかりません。せっかく細かくなったのに、また大きな分子になってしまうんですからね。なぜそんな面倒くさいことをするんでしょう。
実はそれには理由があるのです。
それは、取り込まれた栄養素をエネルギーとして使うときに、脂質よりも糖質であるグルコースを先に使うようにと、体は仕組まれている、ということなんですね。
盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸)、直腸からなる大腸ですが、ここではおもに小腸では消化・吸収しきれなかった消化物の残りを処理し、便をつくるはたらきをします。
消化管全体を通過する消化物や水分というのは、なんと1日に約9L!そしてその大部分は小腸で吸収されていて、小腸では消化できなかった約2Lほどの残りの消化物の食物繊維などを腸内細菌が発酵分解し、ナトリウムなどの電解質とともに吸収されていく、最終段階の吸収のお仕事がここ、大腸では行われています。
そして、小腸から大腸に送られた段階ではまだ流動体だった消化物は、腸管が「蠕動運動」や「分節運動」という反射運動を繰り返すことによって、半日から数日かけてゆっくりと水分が吸収され、固形化されて便となっていきます。
大腸の最後の区分、直腸には消化・吸収の機能はなく、便が直腸にたまると、その情報は自律神経を通して脳に刺激が届き、便意を催します。
そこではたらくのが「胃・結腸反射」といわれるもので、朝、胃に食物や水分が入ると反射が起き、直腸の内圧が高まり、「内肛門括約筋」がゆるみます。そして次に「外肛門括約筋」がゆるみ、めでたく排便となります。
さあ、お疲れさまでした。食事をしてから約24時間から72時間という長い旅を終え、「食べる」の一連が幕を閉じました。
「食べる」ことによって、実に多くのことが体の中では自動的に行われ、しかもこれが滞りなく行えているというのは、本当に神秘的で奇跡的なことだと私は思います。
そしてもしここに不調が生まれたとしても、きちんと養生しさえすれば、私たちにはその不調を治す力=免疫力もこの神秘的な仕組みの中にはあるのです。
そのために、こういった体の仕組みを知ることや意識を向けることは、とても大事なことだと私は思っています。